家のない女性たち 10代家出女性18人の壮絶な性と生 鈴木大介 書評

・この本はどういうことを扱っているのか


「家出女性」と聞くと、家庭の貧困や親からの虐待、あとは自分勝手なワガママで非行に走った女性たちなのだろうと認識する人が多いですよね。でも、その実態は悲惨で、壮絶。社会的養護されるべき子達が、裏社会で援交や性風俗で生計を立て「本気で家出をしている」という状況を世に知らしめる作品がこの『家のない女性たち』という書籍です。作者が取材活動によって得た情報がふんだんに盛り込まれてあり、衝撃の連続であって且つノンフィクション。行き場のない彼女たちが抱える思いと、現代社会の底辺ともいえる状況に生きる現場があるのを知ることができる書籍。読み終わったあとは、どうしようもない虚無感に襲われることでしょう。


・本の意図はどのようなところにあるのか


本を読むと、まず新たな認識が生まれます。ちょっとした出来心で…といったように特段理由も筋の通るキッカケもなくプチ家出をするのではなく、家を棄てて社会で一人行き場もなくサバイバルをするように生きる女性たちがいるということに気付くことが出来ます。前途有望なはずの若者が、様々な事情によって家から逃げるのではなく、家を棄てて現代社会の波に身を投じているということを著者は気付かせてくれるのです。彼女たちは一体なぜ、頼るべき行政や児童施設といったものとの関わり合いを避け、裏社会にはびこる男達と性交渉などをしてでも生活していこうとするのか、という焦点がこの著書の軸にあります。一般的に家出女性と聞けば奔放な若者と解釈されてしまいますが、女性達が身を危険に晒しながらも懸命に居場所を求め、そして生き抜く姿を知る機会を私たち読者に与える意図があるように感じました。


・本の筆者が最も訴えたかった点とは


小学生や中学生、それよりもまだ幼い時期から家庭に様々な問題を抱えている女性たちが存在します。母親が薬に手を染めてしまったり、収入が少なく育児放棄気味であったり、養育する能力が無く虐待に走るケースなど様々。家庭を棄て売春男に頼ったり、援デリに身を落としたりしてお金を稼ぐ…生きていくために、犯罪結社に関わることになってしまう現実が苦しいという点。そして、そういう女性を食い物にする組織があり、犯罪の収益金で薬が出回る…といった社会の悪循環の根源に立たされているのが家のない女性たちであるということを作者は作品中強く繰り返しています。女性たちの転落を防ぐために整えたはずの法整備も、結局は彼女たちを苦しめることにつながっているという事実。悪い大人が手を引き、売春ネットワークへと引きずり込む社会の構図に物言う姿勢が感じられ、共感できます。


・望ましい読み進め方について


戻らない覚悟で家を飛び出し、保護されているはずの施設からも脱走を図る女性たち。著者の取材を通して、児童福祉のあり方を考えさせられます。一番の被害者は家のない女性たちで間違いないのですが、では加害者は誰なのかという点を考えながら読み進めていくとよいでしょう。インタビューから構築された様々なエピソードによって、居場所を失うに至った経緯は違います。一体どこに受け皿があれば、彼女たちは裏家業人のような男達に利用されるのを防げたのか…と自分なりに思考を巡らせて読み進めるとより深く心に刻まれることでしょう。


・自分が興味深いと感じた箇所


女性たち一人ひとりが抱いている感情が様々であることが大変興味深かったです。売春することで生計を立てる彼女らですが、その中に「ぬくもり」を感じる女性がいたり、本当の愛を探す女性がいたり…それも仕事!と欠勤せずに自主的に体を不特定多数の男に売る。バリバリ頭を使って経営側に回る女性がいて、知的障害を抱えながらも性産業で生き抜く女性まで実在するとのことでした。好奇心というと語弊があるかもしれませんが、この時代にこういう生き方をしている子がいるのか…とショックを受けると同時にもっとこの業界を知りたいという感情でいっぱいになりました。


・自分がこの内容は本を語る上で欠かせない点だと感じた箇所


ズバリ、この世の中は綺麗事では済まされないことでいっぱいだということです。書籍の中には、少々キツイ表現が含まれています。その光景を想像すると胸が痛み、失望することでしょう。そういう部分こそ、この本の醍醐味だと感じてなりません。この現実から逃避することなく、社会の制度を含めどうフォローしていくべきなのか、この悪循環をどこから絶てばよいのか…思考回路を存分に巡らせていただきたいと思います。


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